古代の楽器の誕生から中世の撥弦楽器、エレキギターの誕生まで


はじめに
私はギターを6年弾いているが、ギターという楽器の歴史をあまり知らず、今まで調べたことがなかった。私の音楽仲間やギタリストもその歴史について詳しく調べたことのある人間は少なかった。そして現代では、ギター経験者や楽経験のない人、クラシックで使う楽器の経験者や伝統楽器の経験者でギターという楽器のイメージの違いや曲中におけるギターへの考え方が違う。考え方や音楽の批評、感想などは人の数だけあり、自由であるべきだと私は考えているが、ギターと言う楽器の歴史や立ち位置を理解していないがためにマイナスのイメージを持ってしまう人や、逆に過剰にプラスなイメージを持ってしまう人がいるのだ。
そこでギターの歴史や現代音楽におけるギターの立ち位置、その音の特性などを知ってもらい、ギターに対するイメージが正しく良いイメージになってほしいと考えたため、今回調べてみることにした。
世界中の人たちに愛されているギターという楽器が一体どのように生まれたのか、音楽の流行や時代の変遷によってどう変わっていったのかを、古代の弓の弦をはじいて音を出す簡素な楽器だった頃からヨーロッパでのギターの確立、アメリカの弦楽器の影響による変化、現代の磁石や電気信号を使ったエレキギターになるまでの歴史についてまとめてみた。また、現在の「ギター」と呼ばれる楽器の大まかな種類、ギターを使った音楽なども説明する。
なお、ここではエレキギターとアコースティックギターの歴史を分けずに説明していきたいと思う。
この調査を通して、ギターという楽器が、バイオリンなどのクラシックで使う楽器や、三味線や中東のウードなどの伝統音楽に使う弦楽器などと同じように長い歴史のある楽器であるということを知ってもらう。また、それらの楽器の類似点や、どのように古代の弦楽器から派生していったのかを知ることで、音楽経験を問わずギターに興味を持つ人が増えてほしい。また、ギターに興味を持つことで既存の楽曲のギターサウンドに注目してもらい、音楽批評や日々の音楽生活に役立ててほしい。
さらに、ギターの歴史を通して、プロアマ問わず作曲家や編曲家など音楽作成を行っている人達が、ギターという楽器の立ち位置を改めて正しく理解してもらうことで、今後の音楽作成の糧にしてほしいというのがこの調査の目的と意義である。
撥弦楽器の起源とウード、リュートの原型
弦楽器のルーツと進化:音楽史を彩る響きとその変遷 | PHABRIQ (phabriqmedia.com)
諸説ありますが撥弦楽器の始まりは弓の弦をはじきならしたことに始まるといわれている。

弦楽器の最も古い形態は狩猟や農耕を行っていた時代の人々が、動物の腸を利用して弦を張り、弓のような形状で音を生み出したことに由来する可能性がある。
古代文明において弦を張り、それを振動させて音を生み出す楽器は、宗教的儀式や日常生活の一部として重要な役割を果たしていた。
紀元前3000年頃の古代メソポタミアでは、竪琴やリュートに似た楽器やウードが既に存在しており、壁画や粘土板の記録からもその使用が確認されている。エジプトでも同様に、ハープやリュートの一種が描かれた壁画が残っていた。
中国ことや琵琶、インドではシタールやビィーナなど紀元前から世界中に弦楽器が使用されていた。
中国、近東、ヨーロッパ、インドの弦楽器のルーツは中央アジアのバルバットと呼ばれる古代の楽器であるとされているがバルバットは文献や壁画に記載されているのみで詳細は現代でも分かっていない。
古代、中世のウードとリュート
https://fanto-magazine.jp/article/guitar-history/#index-3 意外と知らないギターの歴史~アコギやエレキはどうやってできたのか~ | Fanto Magazine(ファントマガジン) (fanto-magazine.jp)
撥弦楽器という観点で考えるとギターの直接の先祖はリュートもしくはウードという楽器といわれている。リュートはヨーロッパ、ウードは中近東の楽器である。いずれも中央アジアのバルバットを祖先とするガキであると考えられている。
リュート系楽器の最古の図像的記録はメソポタミア(現在のナーシリーヤ市)で発見されたもので5000年前のものであるとされている。
歴史学者の伊藤俊太郎はリュートを「明らかにスペイン経由イスラーム起源のものである」と述べているため、ウードのほうがリュートより誕生したのが早いと思われる。
紀元前30世紀から紀元前20世紀ころには串状ネックリュートというボディがくびれたリュートが存在していたと考えられています。実際に紀元前20世紀から紀元前10世紀ころの各文明の出土品からは、胴のくびれの有無はあるにしろネックの長いロングリュートの演奏が確認されています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%83%BC%E3%83%89ウィキペディア、ウード
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%88ウィキペディア、リュート
「リュート」という言葉は、ヨーロッパのリュート族の楽器を意味する。

表面に意匠が施されたリュート
リュートは、中世からバロック後期までの様々な器楽に用いられ、ルネサンス期には世俗音楽の最も重要な楽器となった。 バロック音楽の時代には、リュートは通奏低音の伴奏部分を演奏する楽器の一つとして用いられた。伴奏はコントラバスパートをベースに和音で即興的に演奏するか、譜面に書かれた伴奏を演奏する。リュートは小さな楽器であるため、比較的音が静かで声楽作品の伴奏でも使われた。これらの特性、使われ方は現代のギターとよく似ており、ギターの原型であると呼ばれる所以の一つである。
また、リュートはフレットと呼ばれるパーツがついているものがあるが、ギターにもフレットがついており、酷似している。
しかし、これはあくまで一つの説であり、リュートからギターに進化したのではなく古代、もしくは伝統音楽でリュートがいた立場が、現代音楽においてはギターに置き換わっただけというのが私個人の見解である。

博物館のリュート系楽器の展示
ギターの誕生
前章ではリュート系楽器がヨーロッパ各地に伝わり(リュートという名で)定着していったことを解説した。その伝播によりスペインの楽器であるビウエラがュートの要素と混ざり合い、スペイン舞踊(フラメンコ)の独特のリズムに特化するように進化した楽器がギターの誕生といわれている。現在ギターの存在が確認できるもっとも古い文献は13世紀のもので、このころにはギターが存在していたようだが、だれがいつ発明した等の詳しいことは何もわかっていない。
スペイン語でギターはギターラと呼ばれており、記録によるとギターラ・ラティナ(ローマ人のギターラ)やギターラ・モリスカ(ムーア人のギターラ)などの種類もあったようだ。ただし14世紀から15世紀に多くの文献にギターラの名前は確認できるのだが、実際にそれが具体的にどういう形状の楽器かがわからずじまいだ。印刷技術が発展した16世紀以降になって初めて、 楽器の名前とその形状が確認できる文献を残せるようになり、それが現在で形状を確認できる最古の資料になっている。
最初期のギターは4コース(当時の弦楽器は復弦が基本だったため、1コースに2本の弦が張ってある状態)だったが音域が狭く、現代のギターにおいて低音部となる5弦と6弦が存在しなかった。そのため、声部の処理においても、作曲家は特に工夫を凝らさなければならなかった。
音域や音量を増やすべく16世紀から17世紀にかけて4弦が5弦に変化し、バロック期に発明されたギターのためバロックギターと呼ばれた。
17世紀になると弦の製造法が変わり、以前までは羊腸を薄い膜にし、捩ってまっすぐにした「ガット」と呼ばれるものを弦としていたが、ガットを芯に絹糸または糸状の金属を巻き付ける巻線が開発された。これにより音域が広がり、複弦である必要もなくなったため新たなギターの進化の足掛かりとなった。18世紀後半に現在のギターのような6弦かつ丸いサンドホールを持ったギターが発明されたとされている。


5弦のバロックギターの図(上)とバロックギターを弾く人の絵画(下)
クラシックギターの完成
18世紀末から19世紀にかけて6弦ギターは更なる発展を遂げる。大きな変化は3つあり、1つ目の変化はガット製のフレットをネックに巻き付けていたものから、独立した指板に金属製のフレットを打ち付けてネックに張り付ける構造になったことだ。これによって耐久性や音質や音量が向上した。2つ目の変化はペグが木製のものから金属製のペグ(ギア式)のものが発明された。この変化により弦を固定する力が向上した。弦の張力が強い場合、木製では壊れやすいため金属製のペグはギターの耐久性も向上させた。3つ目の変化はブレーシング(力木、ボディ内部に取り付けられた棒状の木材)がリュートと同じく水平方向のみだったもの(ラダーブレーシング)が、放射状に取り付けられたファンブレーシングが導入された。これにより音量が向上したのだった。
19世紀にはこれらの技術を用いた小型中型の ギターが作られるようになり、いわゆる19世紀ギターと呼ばれた。しかし、この19世紀ギターは現代のクラシックギターほどの音量は出せず、当時の演奏家たちは音量不足に悩まされていた。そこでスペインのギター製作家であるアントニオ・デ・トーレスがサウンドホールにトルナボスと呼ばれる漏斗状の金属を設置やボディを大型化し弦の長さを65cmにするなどの改良を重ね、現代のクラシックギターの原型を完成させた。前述のファンブレーシングを発明したのも彼だと言われている。

現代のクラシックギター。現代でも形は変わらない。
アコースティックギターの登場
現代においてアコースティックギターというとフォークギターをイメージする人も多いと思うが、そのフォークギターの基礎を開発したといわれているのはクリスチャン・フレデリック・マーティンだ。彼は1850年代にブレーシングをX状のXブレーシングを開発した。この力木の構造はファンブレーシングより音の繊細さはかけるものの、ボディの耐久性が著しく向上し、ガット弦よりも張力が高いスチール弦を使用できるようになった。ただし、実際にマーティン社(C.F.Martin&Co:マーティンが創業したギター製作会社)がスチール弦のフォークギターを製作したのは彼の死後1922年と言われている。
初のスチール弦のギターは1880年代にスウェーデンからアメリカのシカゴに移住したカール・ラーソン(兄)とオーガスト・ラーソンのラーソン・ブラザーズ(Larson Brothers)によって製作された。彼ら兄弟はギターを大音量する際にマンドリンのスチール弦に注目し、Xブレーシング構造でフラットトップのスチール弦ギターを完成させた。
時を同じくして、オーヴィル・ヘンリー・ギブソンがアーチトップのフォークギターを発明した。マーティンやラーソン兄弟のアプローチとは違い、ギブソンは削り出しによるギター製作を行った。これはもともとギブソンがヴァイオリン製作の技術を持っていたからであり、その技術は当時流行していたマンドリン製作にも生かされ、さらにフォークギターに応用されていった。
フォークギターの普及の背景にはアメリカの文化や時代の流れが影響しているといわれている。アメリカの黒人のカントリーミュージックの楽器であるバンジョーがスチール弦であり、20世紀前半ブルースなどのカントリーミュージックが発展流行していくのと並行して、スチール弦であるフォークギターの需要も拡大し普及していくことになる。

Xブレーシング構造。現代ではバランスの良い音になるといわれ愛されている。
ブレーシングの種類と特徴まとめ (into-guitar.com)
エレクトリックギターの発明
スチール弦のフォークギターも大音量化が進められたが構造上の問題によりアコースティック機構での大音量化には限界が近づいていた。そこで20世紀初頭から、ギター弦の振動を電気信号に変換し、アンプにつなぐことによって信号を増幅させて音量を大きくするアプローチが始まった。
エレキギターの発明に関しては諸説あるが、1931年にアメリカ人のジョージ・ビーチャムがタングステンのピックアップを搭載したスチール弦アコースティックギターを発明したのが初とされている。1932年にはビーチャムはスイス系アメリカ人のアドルフ・リッケンバッカーと共同で会社を設立し、通称フライパンと呼ばれるエレキギターを製造販売した。
エレキギターは徐々に人々に受け入れられ、ギブソン社など他メーカーによってエレキギターが作られるようになったが、初期のエレキギターの欠点として、フルアコ(ボディの中が完全に空洞になっているエレキギター)構造のためハウリングが起こりやすく大音量が必要なノイジーな場面での演奏に難があった。
それを克服するべく共鳴胴を持たずハウリングが起こりにくいソリッドボディが考案され、1949年にアメリカ人のレオ・フェンダーによってソリッドギター(テレキャスター、もしくはエスクワイヤー)が発表された。1952年にはギブソンからレスポールが、1954年にフェンダー社からストラトキャスターが発売されると人気を博しロックなどのバンド演奏でなくてはならないものとなっていった。



上からフライパン、フルアコ(Gibson ES175)、ソリッドギター(Fender テレキャスター)
現代のギターの大まかな種類(アコースティック)
ここでは現代で主流のギターの名前と画像を紹介する。
・ドレッドノート(D-18)

・000(000-28)

この2つのギターはマーティン社製のギターでボディのくびれが浅く、ボディ形状が全体的に大きく音量もあるのがドレッドノート。000はドレッドノートよりくびれが深く、全体的に小さいボディのため、やわらかいことが出る。
・ラウンドショルダー(J-45)

・ジャンボ(SJ2000)

この2つのギターはギブソン社製のもので、ラウンドショルダー(画像はJ-45)ドレッドノートをなで肩タイプにした形で、コードストロークで豪快に弾くのに適しており、パワフルなサウンドが特徴。ジャンボはアコースティックギターの中で最も大きいタイプ。
現代のギターの大まかな種類(エレキギター)
・テレキャスター

・ストラトキャスター

・ジャズマスター

この3つはフェンダー社のギターでテレキャスタ―はパワフルな音もジャジーな音もこなせる万能型。ストラトはテレキャスターに比べ、丸い音が特徴でブル―スやファンクでよく使われる。ジャズマスターはその名前とは裏腹にグランジやオルタナティブロックなどのロック音楽で使われることが多い。
・レスポール

・SG

・ES335

この3つはギブソン社のギターでレスポールは中音域の豊かなサウンド、SGはレスポールに比べ歯切れのよい音でロックと相性がよく、ES335はジャズで使われることも多いが以外にもブルースからロックまでこなせる万能選手である。
これらの他にもフェンダーはジャガーやムスタングなど、ギブソンはファイヤーバードやエクスプローラーなどのギターがあり、それらも独自の音を持っている。また、PRS Custom24やSuhr Modernなど様々なエレクトリックギターが現代にはある。
まとめ
ギターというと他の楽器と比べると歴史の浅い楽器だと思われることもあるが、その歴史は紀元前から脈々と続いている楽器なのである。世界中で様々な種類のある弦楽器は元々共通の祖先をもっている可能性が高く、その祖先が世界中に広まる中でヴァイオリンや三味線、そしてギターへと変わっていったのである。
「ギター」という名前になってからはその特性上、音量の小ささとの闘いの歴史となった。弦の張力を上げるため、ブレーシングの発明などボディの改良に弦を張るペグの改良やガット弦の改良にスチール弦への移行(現代でもガットギターは使われている)、そしてギターの音を電気信号に変えてアンプで音を出すエレクトリックギターの発明にまで至ったのである。ギターという楽器は元々完成されたものではなかったが、その分人類の発明や科学力の成長とともに進化していった楽器なのである。
現代ではギターアンプの代わりにオーディオインターフェイス機能のある機材などでPCに接続して音を出せるようになるなど、ギターやその環境は進化し続けている。今後ギターという楽器はどのような進化をしていくのか注目していきたい。